アスベストの事前調査は、2022年4月1日より義務化されました。「全ての工事が対象なのだろうか」「事前調査をしないとどうなるのだろう」と疑問に思っている人もいるでしょう。今回は、アスベストの事前調査の流れや対象の工事、調査をしなかった場合の罰則などを解説しています。調査業者を選ぶポイントも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
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アスベストとは?
まず、アスベストとはどのようなものなのか、特徴や危険性をご紹介します。使用目的や飛散性も併せて確認し、アスベストに対する知識を深めましょう。
アスベストの特徴
アスベストは「石綿」とも呼ばれ、構造が繊維状になっている天然鉱物です。アスベストは熱や摩擦、薬品に強く、防音性や耐久性にも優れています。そのため、建材として重宝されました。また、世界各地で産出され、安く入手できる点も汎用された理由の一つです。
アスベストが危険と言われる理由
1970年代に入ると、アスベストを長期間にわたって大量に吸い込むと、肺がん、石綿肺など肺の病気の原因になる可能性が指摘され始めました。アスベストは目には見えない小さな物質のため、気付かないうちにアスベストを吸い込んでしまうリスクがあります。さらに、アスベストが原因の病気は15年から長くて50年の潜伏期間がある点も、大きな問題とされました。
主なアスベストの使用目的
アスベストは様々な用途で使用されましたが、特に多かったのが、屋根材や外壁などの建材としての使用です。その他にも、耐熱性が求められるパッキンや、摩擦材として自動車のクラッチ板にも使用されていました。
アスベストのレベルと飛散性
アスベストは、飛散性と非飛散性に分かれており、さらに1〜3のレベルに分けられています。レベル1が最も飛散性が高く、危険度も高いです。レベル1は吹き付け材、レベル2は断絶材や保温材などとして使用されている事が多く、レベル3は、屋根材や外壁材として使われていることが多いです。
アスベストの事前調査が必要になった背景
アスベストは、2006年9月から使用が禁止されました。しかし、2006年以前に建てられた建築物や工作物には、アスベストが使用されている可能性があります。そのまま解体・改修をすると、アスベストが飛散し、周囲に大きな被害が出るリスクもあるでしょう。そのため、2022年4月1日から、解体工事前にアスベストの事前調査が義務付けられました。同時に、事前調査の結果報告も義務付けられています。
アスベスト調査の義務化の詳細
続いては、アスベストの事前調査の義務化について詳しい内容を見ていきましょう。対象となる工事や、調査をしなかった場合の罰則についてもご紹介します。しっかり確認をして、事前調査に挑みましょう。
義務化になる日
アスベストの事前調査は、先述したように2022年4月1日から義務化されました。実は、2021年4月1日の法改正でも、アスベストの調査・結果の保存が義務付けられていましたが、アスベストが含まれているとみなして対策をしながら工事を行なえば、事前の調査は不要とされていました。
義務化の対象となる工事
アスベストの事前調査は、全ての工事で行なわなければいけません。さらに、以下に該当する工事は、調査の結果を労働基準監督署・自治体に報告する必要があります。
・解体部分の延べ床面積が80㎡以上の建築物の解体工事
・請負金額が税込100万円以上の建築物の改修工事
・請負金額が税込100万円以上の特定の工作物の解体または改修工事
・総トン数が 20トン以上の船舶(鋼製のものに限る)の解体又は改修工事
報告義務は元請業者にある
「事前調査の結果報告は誰がするのだろう」と思っている人もいるでしょう。アスベストの結果報告は、元請業者が行なうことになっています。そのため、解体業者はアスベストの事前調査に対してきちんと対策が必要です。
アスベストの調査を怠った場合の罰則
もし、アスベストの調査を怠ったり、虚偽の報告を怠った場合は、大気汚染防止法によって30万円以下の罰金を科せられます。さらに、アスベスト除去などの措置義務に違反すると3か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
アスベストの調査をする流れ
アスベストの事前調査には、アスベストの飛散を防ぎ、安全に工事を行なう目的があります。ここでは、アスベスト調査の流れを一つずつ見ていきましょう。
1.解体業者を探す
まずは、信頼して調査を任せられる業者を探しましょう。2023年10月1日以降は、厚生労働省が定める講習を受講し、特定の資格を取得した人のみアスベスト調査が可能です。有資格者がいるかどうかも確認し、依頼先を決定しましょう。
2.書面調査
アスベスト調査では、まず書面調査を行ないます。書面調査では、設計図や竣工図で、使われている建材や建築時期を確認します。建築時期がアスベストの使用が禁止された2006年9月1日以降であれば、次の目視調査を行なう必要はありません。
3.目視調査
書面調査でアスベストの含有が分かった場合、目視での調査を実施します。目視調査では、実際に建築物を見てアスベストの有無を確認します。塗装やビニールで覆われている部分でも、壁や床の一部をめくるなどして裏側まできちんと調査をしなければなりません。
4.分析調査
目視調査では、アスベストの有無が明らかにならなかった場合、分析調査を実施します。分析調査では、試料を採取しなければなりません。そのため、しっかりと飛散防止対策を行なう必要があります。
アスベスト調査結果の報告の流れと内容
続いて、アスベストの事前調査の結果報告の流れを見ていきましょう。報告を怠ると罰則の対象となるため、元請業者は正しい内容を期日までにきちんと報告する義務があります。
調査結果を都道府県や労働基準監督署に提出
調査結果は、都道府県や労働基準監督署に提出します。期日は解体工事開始の14日前までで、報告書は3年間保存しなければなりません。アスベストの有無に関わらず、必ず提出が必要です。
調査結果の報告には専用の電子システムを使用する
調査結果の報告は、原則「石原事前調査結果報告システム」という専用の電子システムを使用します。オンラインで報告が行なえるので、都道府県と労働基準監督署に同時に報告できるのが大きなメリットでしょう。また、複数の現場の調査結果もまとめて報告が可能です。
調査結果の報告内容
工事の概要や建築物の概要だけではなく、建材ごとの調査結果も詳しく報告しなければなりません。アスベストが含有されていた場合、どのような対策をして工事を行なうのかも記載します。調査者は責任を持って事前調査、報告を完了させる義務があります。
アスベストの事前調査に必要な資格
2023年10月1日からは、法改正によりアスベストの事前調査を行なえるのは有資格者に限られます。ここでは、アスベストの事前調査を行なうために必要な資格を解説します。
一般建築物石綿含有建材調査者
一般建築物石綿含有建材調査者は、一般財団法人日本環境衛生センターが実施する講習を受講し、認められた人が得られる資格です。講習を受講するためには、アスベスト調査や建築に関する実務経験が2年〜11年以上(学歴により変動)必要です。
特定建築物石綿含有建材調査者
特定建築物石綿含有建材調査者は、一般財団法人環境科学センターが実施する講習を受講し、筆記試験と口述試験に合格した人が得られる資格です。一般建築物石綿含有建材調査者と同様に、アスベスト調査や建築に関する実務経験が2年〜11年以上必要です。
一戸建て等石綿含有建材調査者
一戸建て等石綿含有建材調査者は、一般社団法人企業環境リスク解決機構が実施する講習を受講し、修了考査に合格した人が得られる資格です。同様に、実務経験が2年〜11年以上必要です。ただし、一戸建て等石綿含有建材調査者が行なえるアスベスト調査は、一戸建て住宅もしくは共同住宅の住戸の内部のみのため注意しましょう。
アスベスト除去工事に必要な届出
アスベストの除去工事には、3つの届出が必要です。ここでは、それぞれの届出について詳しく解説します。届出について頭に入れておくことで、よりスムーズにアスベスト除去工事に臨めるはずです。
建築物解体等作業届
建築物解体等作業届は、アスベストを含む有熱材や有温材などを解体する時に必要な届出です。工事開始日までに、労働基準監督署に提出しましょう。提出時には、建築物もしくは工作物の概要が分かる図面の添付が必要です。
特定粉じん排出等作業実施届
特定粉じん排出等作業実施届は、アスベストを含む断熱材や保温材、吹き付けアスベストを除去する時に必要な届出です。工事開始の14日前までに、各自治体などに提出しましょう。
工事計画届
工事計画届は、耐火・準耐火建築物の吹き付けアスベストを除去する時に必要な届出です。工事開始14日前までに、労働基準監督署に提出しましょう。提出時には、工事工程表、図面、技術基準適合比較表、整理台帳などの各書類も必要です。
アスベストの調査で利用できる補助金
アスベスト調査の費用は、施主が支払うことになっています。事前調査は約40,000円~
80,000円が相場で、少しでも費用を抑えたいと思う人もいるでしょう。ここでは、アスベストの調査で利用できる補助金制度についてご紹介します。
補助金制度について
アスベスト調査の補助金制度は、各自治体によって条件が異なりますが、国によって以下のように支給条件が定められています。
・対象事業:建築物の吹き付け材のアスベスト含有の有無に関する調査
・対象建築物:吹き付けアスベスト、アスベスト含有吹き付けロックウール、吹き付けバーミキュライト、吹き付けパーライトが使用されている可能性がある建築物
・補助額:限度額25万円/棟
補助金制度の具体例(岡山県)
岡山県岡山市では、建築物の吹き付け材にアスベストが含有されているかの含有調査の費用に補助金制度が設けられています。
・補助対象:多数の者が利用し、露出している吹き付け物にアスベストが含有されているおそれのある民間建築物(ただし、当該建築物に解体等の除却予定が無いこと)
・補助金額:調査箇所1箇所当たり6万円を上限。ただし5箇所以上調査する場合は25万円を上限
アスベスト調査業者を選ぶポイント
最後に、アスベスト調査を依頼する業者を選ぶポイントをご紹介します。アスベスト対策をきちんと行なってくれる業者を見極め、安心安全に工事を進めましょう。
見積もり内容におかしな点がないか確認する
業者から見積もりが届いたら、疑問に感じる点がないか確認をしましょう。料金が不当に高い、施工内容が曖昧など、不安があれば問い合わせも必要です。また、業者によっては追加料金が発生する可能性もあります。納得して依頼するためにも、見積もり内容はしっかりチェックしましょう。
アスベスト調査報告書の作成実績を確認する
過去にアスベスト調査の報告書を作成したことがある業者を選ぶのも大切なポイントです。業者によっては、ホームページに作成実績を掲載していることがあります。掲載されていない場合は、担当者に質問するのもよいでしょう。
資格を持っている作業員がいるか確認する
アスベスト調査を行なえる資格を持っている作業員がいるかどうかも確認しておきましょう。2023年10月1日からは「石綿含有建材調査者」の資格を持っている人しか事前調査ができなくなります。資格を保有していて、過去に調査経験がある作業員がいる調査業者を選びましょう。
まとめ
アスベストの事前調査は、2022年4月1日から義務化されました。アスベストの有無に関わらず、全ての工事が調査の対象です。さらに、2023年10月1日からは「石綿含有建材調査者」の資格を持つ人しか調査ができなくなります。安全に工事を進めるために、経験豊富な資格者がいる業者を選びましょう。補助金制度を利用できる場合もあるため、各自治体のホームページを確認するのがおすすめです。